2026.03.10
【イベント報告】家賃補助プロジェクト報告会|若者が住むために本当に必要な「こと」は?
サンカクシャは2024年〜2025年度にかけて、既存の制度から溢れてしまう若者の住まいのサポートと政策提言に向けた調査を目的に「家賃補助プロジェクト」を実施しました。本記事は、2025年1月31日に実施したオンライン報告会の内容をまとめたものです。
物価高騰が続くなか、住まいを維持することが、若者にとってどれほど切実な問題になっているのか。
サンカクシャが実施してきた「家賃補助プロジェクト」は、単に家賃を補助するだけでは見えてこなかった、若者たちの生活や心身の状態、そして既存の制度では支えきれない現実を浮かび上がらせました。
登壇者
岡部 茜(大谷大学社会学部 講師)
大谷大学社会学部講師。
生活の困難さを経験している若者が、安心して生きることができる場を得て暮らし続けられる仕組みについて研究している。近年は、とくに若者の住まいと支援のあり方に関心をもっている。普段の生活のなかではたまにやる洗濯槽洗浄が特に好き。 著書に『若者支援とソーシャルワーク』(単著、法律文化社、2019年)、『住む権利とマイノリティ』(分担執筆、青弓社、2025年)など。
石山 裕菜(京都橘大学総合心理学部 講師)
京都橘大学 総合心理学部 講師。
「YouTube やゲームの誘惑に流されず、本当にやりたいことをするには?」をテーマに、ストレスや自分の考え方のクセ(ポジティブ思考・ネガティブ思考)をうまく活かした目標達成や健康向上の研究を行う。休日は美味しい焼き菓子を食べ歩くのが楽しみ。著書に『サイエンティスト・プラクティショナー入門:心理職をめざす人のために (y-knot)』(分担執筆、有斐閣、2025年)、『臨床心理学と心理学的支援を基本から学ぶ』(分担執筆、北大路書房、2021年)がある。
唐仁原 志保(サンカクシャ 居住支援スタッフ/政策提言担当)
サンカクシャの居住支援チームでスタッフとして現場で若者に伴走しながら、政策提言の施策を推し進める。
支援のはざまを埋める「家賃補助プロジェクト」

報告会の冒頭、居住支援スタッフの唐仁原より、サンカクシャの概要と本プロジェクトの背景についてご説明しました。
サンカクシャの居住支援では、親や周りの大人に頼れない若者を対象に、住まいの提供と生活の安定に向けた伴走支援を行っています。私たちが支援する若者は「制度の狭間」にあり、困窮していても既存の公的支援が受けられない、公的機関に繋がれないケースがあります。
必要なのは住まいがあることだけなのか。
「住まいがあること」だけでは足りないとしたら、若者が安定して暮らし続けるために本当に必要なもの(こと)とは何なのか。
本プロジェクトは、若者のニーズにあった具体的な支援を進めるために始まりました。
家賃補助プロジェクトとは
「親からの経済的援助に頼れず、公的制度にもつながれない若者」を対象に、家賃補助(月3万円×6ヶ月)と伴走型支援(面談・制度申請同行など)を実施する取り組みです。
2024〜2025年度に実施し、サンカクシャに加えて居住支援をおこなう若者支援団体にもご協力いただきました。
【調査の目的】
・困窮している若者への一時的な経済的支援(生活基盤の安定化)
・自立に必要なスキルを身につけるための支援(就労準備・社会保障制度への接続)
・民間団体・公的機関へのモデルケース提示と政策提言
ヒアリング調査の結果(岡部氏)
岡部氏からは、本プロジェクトを利用する若者の現状と利用に至る背景、求められる家賃補助の形態などをヒアリング調査した結果を報告していただきました。
どのような若者が利用したか
家賃補助プロジェクトの利用者(延べ39件、実人数37名)のうち、16名にインタビューを実施しました。年齢は10代後半〜20代前半が中心で、学生が約半数、残りは無職または非正規雇用でした。
利用する背景:
①家族からの支えがほぼない
多くの対象者が、親や周りの大人から恒常的なサポートを受けられていない。中には、親から気分で金銭的な補助が受けられる場合もあるが、安定した支援ではない。
②公的制度への接続の難しさ
学生は原則として生活保護を利用できない。また学生でなくても、制度へのスティグマ(抵抗感)や、親との関係が整理できていないことから申請に至らないケースがある。
③精神的な不調
インタビュー対象16人中13人に何らかの心身の不調があった。
お金がないとき、どうやりくりしていたか
公的制度にもつながれず、家族にも頼れない中で、若者たちは様々な方法で生活をしのいでいました。
- 長時間アルバイト・掛け持ち(深夜まで働くことも)
- 風俗・パパ活
- 友人・知人への借金
- 消費者金融・クレジットカードのリボ払い
「周りもやっていたし、もうそれしか選択肢がないと思ってやっていた」。
パパ活については否定的な意見だけでなく、「その時だけ自分を見てもらえる」という両義的な語りもありました。
休息確保と移動の自由。家賃補助が若者にもたらす変化

家賃補助期間が終了(一部、終了間際も含む)した若者にヒアリングした結果から、一般化は難しいものの、今後につながる補助の影響として下記の2点が挙げられました。
①収支調整による休息確保
月3万円のプラスにより、病院に行く、買い物に行く、友人と遊ぶなどの時間が確保できた。「バイト休んでいいんだ、休むのも大事だ、と改めて気づいた」という声もあった。
②移動可能性
実家から逃れること、一人暮らしへの一歩を踏み出すこと、信頼できるコミュニティの近くに住むことが実現した。家賃補助の柔軟性により住む場所を選べ、居住支援団体の施設提供では実現しにくい「移動の自由」をもたらした。
家賃補助後の生活
家賃補助期間が終了後の生活としては、大きくわけて3つの経路がみられました。
①生活保護・障害年金の利用:
当初は抵抗感があっても、伴走支援を通じて徐々に受け入れていった経路。ただし、不本意に生活保護につながらざるをえなかった人もいました。
②稼得の安定:
在学、不調、失業などを経て、安定して生活できるようになった経路。
③親族支援の再開:
別居することで関係性が改善し、親族からの援助が得られるようになった経路。
心理指標の分析結果(石山氏)
石山氏からは、家賃補助開始直後と終了後の2回、ストレス反応、感情状態の指標を測定し比較した結果を報告していただきました。
集団レベルの結果
集団レベルで補助期間の開始直後と終了後を比較すると、終了後は「不安・不確実感」がやや上昇し、「安静状態(穏やかな気持ち)」も高くなっていました。支援終了後の生活への不安、後者は伴走支援と金銭的支援による安定感の反映と考えられます。
※比較した集団が同一人物ではないため参考数値
個人レベルの変化(2事例)
▶ Aさん
否定的感情と抑うつ気分が低下し、安静状態が向上。自律神経症状も改善。感情の揺れが少なくなり、穏やかさが増した。「不安・不確実感」はほぼ変化がなく、本人もまだ「安定していない」と語っていた。
▶ Bさん
自律神経症状(眠れない、動悸など)が低下。一方で疲労・身体反応は上昇傾向。仕事を始めたばかりという状況が反映されているとみられる。
若者の事例紹介
報告会では、岡部氏より安定に向かった3事例と、唐仁原より不安定な状況が続く1事例が紹介しました。
■ Aさん(10代後半・専門学校生・男性)
自立援助ホームを経て、別地域の専門学校に進学。民間団体のシェアハウスに入居したが、新生活と出費が重なり精神的不調になり、アルバイトの継続が難しくなった。家賃補助を利用して生活を継続し、現在も専門学校に在籍中。
■ Bさん(20代前半・大学生・女性)
高校3年時に家を出て、親族宅を経て民間のシェアハウスで暮らしていた。アルバイトと家賃補助を組み合わせ、頼れる人がいる仕事先の近くに転居できた。精神的に不調になることもあり大学は中退したが、生活保護を受けながら現在もアルバイトを続けている。当初は生活保護へのスティグマがあったが、家賃補助期間に少しずつ緩和された。
■ Cさん(20代前半・大学生・女性)
母親の精神疾患による家庭内トラブルでシェアハウスへ。アルバイト2つかけ持ちの生活が家賃補助で解消され、自炊、通院、友人関係が回復。親と距離を置くことで関係が改善し、親からの金銭的支援も再開される見通し。
※岡部氏より:親・親族が頼れない場合、生活保護などの公的制度の利用もしくは自身の収入で生活することとなるが、関係改善ができれば選択肢が増える可能性がある。
■ Dさん(20代・大学生・女性)〔不安定事例〕
性的虐待経験を持ち、高校時代からアルバイトとパパ活で生活費を工面していた。大学進学して現在は転居して一人暮らし。教員を目指し多忙な中、家賃補助を活用し自炊の余裕も生まれた。その後、転居先で大家からのハラスメントが発生し、転宅を検討中。現在は自宅にいられずネットカフェ生活に至っている。トラウマケアが充分になされていないことから被害を受けやすく、本人も孤立に慣れてしまっていることが課題として残る。
ディスカッションとまとめ
それぞれの報告を踏まえて、本プロジェクトの意義や今後の可能性について3者でディスカッションを行いました。
◉家賃補助の期間と金額について
・期間について、ヒアリングでは「無制限でなくてもいい」という声もあった一方で「一年あった方が生活リズムをつかめる」という意見があった。
・特に学生の場合、一年目は学校・生活・収支のすべてが変化するため、6ヶ月では短いという実感がある。
・金額については地域差もあり、家賃水準に合わせた柔軟な設計が望ましいとの指摘があった。
・月3万円の補助でバイトを減らせると、友人と遊んだりサークル活動ができるようになり、「孤立するような多忙さ」から少し解放される。
・幼少期からの傷つき体験をもつ対象者も多く、6ヶ月の家賃補助だけでは解消できない部分がある。
・補助によって生活保護申請などの接続については有効だったが、必ずしも社会とのつながりが回復されるわけではない。継続支援の必要性を感じた。
◉若者が安定するために必要な要素は?
・家賃補助:特定の場所に縛られない「移動の自由」をもたらす。
・コミュニティ:社会参加(ボランティア・友人・信頼できる大人)が心理的安定につながる。海外研究でも伴走支援あり+家賃補助のほうが健康状態が有意に改善している。
・心理的安全性:「脅かされずに安心して眠れる場所」があること。信頼できる大人が近くにいると思えるだけでもメンタルヘルスに好影響。
・病院・制度への同行支援:本補助プロジェクトでは対象者の多くが精神疾患があった。通院継続は難しいが、スタッフの同行は一定の効果があり、生活の大きな支えになる。
・トラウマケア:性被害・虐待経験を持つ若者への専門的ケアの仕組み作りが課題。
登壇者3名の総括コメント
▶ 岡部氏
「やってよかった」。ただし本来は国が担うべき施策であり、民間でやるなら政策提言に繋げるための調査とセットで進めるべき。今後は、低家賃住宅のストック増加または家賃補助制度の整備が不可欠。
▶ 石山氏
心理指標からも穏やかさの増加など肯定的な傾向が見られ、今後の可能性が見えた。公認心理師・カウンセラーが支援の現場に出向き、NPOと連携するような仕組みが必要。
▶ 唐仁原(サンカクシャ)
若者がいかに「休み」を必要としているかを改めて確認できた。「安心できる場所・頼れる大人・お金」を軸に、シェアハウス事業を続けていきたい。
本プロジェクトの詳細は2025年春に報告書としてまとめ、皆様にもご覧いただけるような形で公開する予定です。
今後も若者本人や社会にとってよりよい制度に向けた取り組みに注目いただき、ともに考えていただけると幸いです。
こちらのプロジェクトは「家賃補助」「(効果検証のための)調査研究」「伴走支援」で構成されています。
以下の助成金で、それぞれの内容を実施しております。
令和6年度 社会福祉振興助成事業
(物価高騰の影響下における生活困窮者やひきこもり状態にある者等の支援に係る民間団体活動助成事業)
寄付・助成団体様ならびに寄付者の皆様に厚くお礼申し上げます。
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