特集・企画
2025.05.21
「”笑う”から”笑わせる”舞台に立った、経験の向こう側」ー若者と芸人が創り上げた、コントライブの舞台裏ー
(左:寺中 右:ウラノタツヤさん)
2025年3月15日に池袋にて開催されたお笑いイベント「スポットライト」。
人と話すのが苦手だった若者たちが、初めての舞台に挑みました。
彼らと共にコントライブをつくりあげたのは、元芸人であり企画者のNPO法人サンカクシャスタッフ寺中と、演出を担ったコントパフォーマーのウラノタツヤさん。
稽古の中で育まれた信頼、緊張に包まれた本番当日、そしてライブを経て見えた若者たちの変化──。
笑いと成長が交差するその舞台裏を、二人の言葉でたどります。
若者支援×お笑いライブが生まれたきっかけとは?
ー最初に、自己紹介をお願いします。
ウラノ:ウラノタツヤと申します。主にコントパフォーマーを名乗っていまして、シナリオライターとしてシナリオを書いたり、演出家として演技指導をすることもあります。
また、戯曲も書いています。戯曲のコンクールの最終候補にも残ったことがあって、それからお話を書くのが楽しくなりました。それまでは芸人として活動していたんですが、物語を書くのも好きになって。お笑い以外の感情を動かすような話も書きたいと思うようになりました。
今回はご縁があって、お笑いライブ制作に参加しました。
寺中:NPOサンカクシャスタッフの寺中です。ウラノとは学生時代からの先輩後輩の関係で、僕は大学卒業後に芸能事務所に入って芸人をやるのですが、その後ウラノも同じ事務所に入ってきて、芸人としても先輩後輩の関係になります。
ウラノ:事務所に先に入っていたのが寺中さんで、僕が入ろうと決めたときに相談したこともあって、長い付き合いになります。
ー寺中さんが企画された背景を教えていただけますか?
寺中: サンカクシャの中に「人と話すのが苦手」という若者が多くて、ずっと若者とお笑いライブをやってみたらどうかと思っていました。視線が合わせられない、相づちがうまくできない子もいて、もったいないなと。
僕自身も昔は人前に立つのが得意ではなかったんですが、お笑いの舞台で人に見られる経験を重ねるうちに自信がついて、人と話せるようになったという経験があります。
そういう経験を若者たちにもしてもらえたらと思い、お笑いライブを企画しました。
ー最初からスムーズに参加者が集まったわけではなかったんですね。
寺中:そうですね。こちらが出て欲しいなと思った子がいても、「人前に立つのはちょっと」と言って断る子もいました。その中で「自信はないけど、興味はあります」と言ってくれる子もいて、まずはやってみようという形で始まりました。
でも、興味があると言ってくれる子もいたので、まずはやってみようという形で始まりました。
ー興味はあるけど躊躇している子に対して、どう声をかけたんですか?
寺中: 「出たら絶対変わるよ」とか、「俺は君が出るのを見たいんだ」「絶対喜ぶ人がいるから」など、その子の状況に応じて伝え方を変えていました。
ー寺中さんと若者の築いてきた関係性があってこそ、成り立った企画だったんですね。
企画について、ウラノさんにはどのようにお話ししていたんですか?
寺中:2年くらい前、サンカクシャに入って半年くらい経ったころから「サンカクシャのお笑いライブをいつかやりたい」と話していました。
ウラノ:話は前から聞いていたので、「あ、やっと動き出したな」という感じでした。
寺中さんは普段、あんまり情熱的にしゃべる感じじゃないですけど、この企画に対しては「やりたい」ということは前々から聞いていたので、寺中さんの想いを感じました。
僕自身もファトランというコントグループをやっていて、毎回違う芸人さんや俳優さんを呼んでコントをするスタイルなんです。今回のライブも、舞台に立ったことのない人たちとコントをやるという点で共感する部分が多くて、ぜひやりたいと思いました。
寺中 :年末くらいに「マジでやろう」となって、まずは会場を押さえようと。それで一気に動き始めました。
ウラノ:僕もやりたかったので「ぜひやりましょう」と。演出も楽しみでしたし、寺中さんがいるなら大丈夫だろうという絶対的な信頼もありました。
ー若者と会う前の印象や、不安はありましたか?
ウラノ:寺中さんから「大人に対してあんまり良くないイメージを持ってる子が多い」「コミュニケーションが苦手な子が多い」と聞いてはいましたが、不思議と不安はなかったです。どうやって稽古を進めるかは考えましたけど、楽しみのほうが大きかったですね。
ーお二人の話になりますが、人生で「笑いに救われた経験」はありますか?
寺中:僕は高校時代、友達と遊ぶよりテレビを見る方が楽しいと思っていて。
やりたいこともないし、何を目指しているかも分かんないし、理想とする人も別にいないしみたいな。日常の生活は多分そんなに楽しくなかった。
でも、お笑いを見ている時は純粋に笑えて、好きなバラエティ番組見るために1週間頑張ろうと思えるくらいお笑いを見ていて。
あの時は本当にお笑いが「生きる希望」となって救われていました。
ウラノ: 僕もテレビはバラエティー番組を観ていて、例えば小学生や中学生の当時はまだスマホもSNSもなかったんで、学校で「あそこ面白かったよね」みたいなのを共有する時間が、生活の一部みたいになっていました。
「笑いがある生活」っていうのは結構当たり前であった世代だと思うんですよ。
笑い=大切なもの、生きる上で大事なことなんじゃないかというのを感じていました。
大学のお笑いサークルに入って自分が笑いを作る側になると、こんなに難しいのかっていう壁にぶち当たりました。
今回のサンカクシャのライブの練習でもそうですけど、舞台の稽古って単純作業だしきついことが多い。でもお客さんがどっと笑ってくれた瞬間報われる。
その一瞬のために全部やってる、その感覚を知っちゃうと、もうなんか抜け出せない感じがあります。
笑いを作る難しさを乗り越えて笑いが生まれた瞬間に、舞台に立つ人も見てくれた人たちも幸せになる。
笑いに幸せじゃない空間はないと思うので、それが「お互いに救われる瞬間」が生まれる、それを出演する若者にも感じてもらいたいと思いました。
ー今回、若者と芸人のコントの形になったっていうのは、最初からそういうのを考えられてたんですか?
寺中 :そうですね。この企画を考えた際、「若者が舞台に立つということがすごい大事だな」というのがありました。とはいえ、若者だけ舞台に立つのはハードルが高いし、難しいというのがあったので、「若者と芸人が一緒にやる」という形がいいというのは、最初の段階からありました。
ウラノ:僕は普段からその人を見てから作りたいタイプで、まず一回会いたいと思って顔合わせを早めに設けてもらいました。
用意したミニゲームを一緒にやって、こういうキャラクターがいいかなとか、そういうのをつかんでいきました。
でも、「舞台に立つ」ってことだけ考えたら、みんな嫉妬するぐらいキャラクターが強くて、設定もすぐに思い浮かんでいました。この顔合わせの段階で、「結構今回いけるんじゃないか」っていうポジティブな印象があったので、あとは稽古がちゃんとうまくいけばっていう感じではありました。
稽古の中で伝えてきたこと、稽古を重ねる中で見えてきた変化
─稽古の段階では、若者の皆さんはどうでしたか?
寺中さん:そうですね……いやー、これがなかなか大変で。全員揃ったこと、多分一回もなかったんですよ。誰かしら体調不良で休む、みたいなことがあって。本番まで、正直ちょっと不安はありましたね。
最初の稽古のときなんか、若者たちは「芸人ってどんな人が来るんだろう?」っていう状態で。しかも自分たちが舞台に出て、人前で何かを表現するってなると、やっぱり構えちゃうというか、緊張してましたね。「何すればいいんだろう?」って、戸惑ってる空気がありました。
でも、さっきも話に出たウラノや、他のスタッフが一緒に関わってくれて、若者と芸人が交流する中で、楽しいゲームとかをやったんですよ。そうすると、だんだん笑顔が出てきて、打ち解けていった感じがありました。
1回目の稽古がすごくよかったから、2回目、3回目も楽しんで来てくれたんじゃないかなって思います。
ただ、本番が近づくにつれて、やっぱりセリフが覚えられないとか、休んでた子が忘れちゃうとかで、直前はみんなちょっと焦ってましたね。まあ、それは芸人も同じだったんですけど(笑)。
──そういう状況の中で、どんなフォローをされたんですか?
寺中さん:来られなかった子に対しては、他のスタッフと一緒に別で練習したり、できるだけサポートしました。あとは、稽古に集まったときに、芸人側や僕自身も含めて、このライブにかける思いをちょこちょこ話すようにしてたんですよ。
「ここに出るだけで、ほんとにすごいことだよ」「もうそれだけで100点だよ」って伝えてました。あとは「最後、後悔しないようにやるだけだよね」って。そういうふうに声をかけてましたね。
そしていよいよ、迎えた本番
─そしていよいよ本番当日を迎えたわけですね。当日の様子はどうでしたか?
ウラノさん:僕は演出を担当していたんですけど、本番当日って、それまでどれだけ積み重ねてきたかがすごく出るじゃないですか。だからこそ、稽古の段階からずっと意識してたのは、「(若者にとって)ただの辛い時間になってほしくないな」ってことでした。
今回のライブって、言ってしまえば僕たちの“企画”じゃないですか。やりようによっては、こっちのエゴにもなりかねない。だから、参加してくれた若者たちには、「やってよかったな」「楽しかったな」って思ってほしかったんです。
稽古の時間が長くなりすぎないようにも気をつけてました。で、ゲームとかも取り入れたりコミュニケーションもとっていくと徐々に距離感が縮まってきて、声も自然と出るようになってきたんです。
技術的なことももちろん大事だけど、それよりも「信頼関係があるか」っていうところが、本当に大きかったですね。3人1組のコントだったんですけど、相手のことを知るだけで声の出方も変わるんですよ。「あれ、先週より声出てるな」って思うことが何度もあって。
技術的な部分の指導も舞台に立つ人は大事なんですけど、お互いへの信頼が稽古で積み重なるだけでこんなに雰囲気が変わるんだというのがあったので、本番はあまり心配していませんでした。
本番前日が一番大変だったのは、たぶん寺中さんなんですよ(笑)。若者のサポート、全部お願いしてて。でも、若者たちが緊張しながらも真剣に台本読んでたというのを後から聞いて、少しでも「舞台に立つってこういうことなんだな」というのが伝わった瞬間がそこにあるのかなと思いました。あと、リハーサルより本番の方が声が出なかったりするんですけど、みんないつも通りやってくれて、とても逞しいな、1ヶ月一緒にやっていると変わるんだなと感じました。
本番が終わった後の若者たちの顔もめちゃ良かった。
頑張った人の顔をしていて、いい思い出になってくれているんだろうな、というのを感じることができました。
寺中さん:いや、めっちゃ緊張してましたよ(笑)。しかも、お客さんの雰囲気も読めなかったから、「これ、会場の空気重かったらどうしよう……」って、結構不安だったんです。
でも、オープニングMCでちょっと笑ってもらえて、「あ、いけるかも」って思えたし、プロの芸人の漫才もめちゃくちゃウケてたんで、「この空気なら若者のコントも大丈夫だな」って思えました。
ただ本番直前は若者たちはほんとに緊張してて、ケータリングも食べられないぐらい。芸人はめちゃくちゃ食べてたけど(笑)。でも、そんな中でセリフも飛ばさず、練習通りの演技ができたのは、本当にすごかったと思います。
お客さんからも、「面白かった」「またやってほしい」ってたくさん声をかけてもらって、アンケートにもいろいろ書いてくださってました。やってよかったなって、心から思いましたね。
─お客さんの反応もとても良かったようですね。
ウラノさん:ほんとに、お客さんがめちゃくちゃよかったです。たぶん、来る前は「何を見せられるんだろう?」って思ってたと思うんですよ。若者支援のイベントで、若者がコントをやるって、あんまりイメージできないじゃないですか。
でも、実際に始まってみると、ちゃんと没入して観てくれてて。しかも、出演者が初めて舞台に立つ若者ってことで、「失敗してもいいよ」っていう、あたたかい気持ちがすごく伝わってきたんですよね。
普通のお笑いライブだと、お客さんと演者の間に「楽しむ側」「楽しませる側」の“壁”があるじゃないですか。でも今回は、そういう壁が全然なくて。「みんなでこの空間を作ってる」っていう一体感がありました。
そういう意味でも、このライブじゃないと作れなかった空間だったなって思います。人間らしさというか、あったかさが溢れ出ていた。ライブっぽくない、皆参加している感じがする、なかなかないライブでした。
──仮に若者たちが本番で実力を発揮できなかったとしたら……?
寺中さん:そうですね、もちろんそういうことも考えてました。セリフ飛ばすとか、間違えるとか、全然あるじゃないですか。でも、それで本人たちが「出なきゃよかった……」って後悔しちゃったら、それが一番辛いなと思ってたんですよ。
だから、もし何かあっても、ちゃんとフォローできるようにしなきゃなって、それはずっと考えてましたね。
一緒に出演する芸人も何度も「後悔しないようにやろう」と言ってくれていたり、しっかり若者たちがライブに、お笑いに向き合ってくれてたんでそこへの信頼というのがあって、ライブを最初企画した時に比べたら、その部分の心配はなくなっていました。
3月15日を終えて、自分たちと若者が感じた”変化”
──実際に本番を終えてみて、若者たちの様子に何か変化はありましたか?
寺中:ある一人の若者から2日後くらいにLINEが来て、「人と話せるようになりました」と言われたんです。
「なんで?」って聞いたら、「お笑いライブに出たことで、人にツッコまれた安心感がすごくあって、ちゃんと喋れば相手が興味を持ってくれるって分かった」って。
ちゃんとしゃべったら人って興味を持ってくれるし、突っ込んでくれるんだなって実感したみたいで。「人としゃべるのが前より苦じゃなくなった」って。
それを聞いて、本気で向き合った結果なんだなと思いました。
ライブが終わってから、あとの二人の若者にも「実際どうだった?」って聞いたんですけど、「出てよかったです」と言ってくれて、1つの思い出としても良かったなと思っています。
とはいえ、この1回の舞台で何かが劇的に変わるというのは、やっぱり難しいと思っています。みんなまだ悩んだりこもったりしてる部分もあります。ただ、あの時に「これだけやれたんだから、できるはずだ」と思えるきっかけになったら嬉しいです。
ーお笑いライブというイベントをやってみて、若者支援のあり方として新たに気づいたことはありましたか?
寺中:ありますね。今回ウラノが本人たちの特性を見て脚本を書いてくれたんですけど、改めてそれぞれの強みってすごくあるなと感じました。
4人の若者が出演しましたが、性別も年齢もキャラクターも違っていて、それぞれが自分の色をしっかり出していた。強さを持っていたんです。
僕らが若者と関わるとき、「この子はなかなか難しいな」と思うこともあります。でも、ちゃんと興味を持って相手を見れば、本人が気づいていない強みや面白い部分って必ずある。お笑いって、何もできなくても、むしろ「できないこと」を面白さに変えられるのが強みだと思います。
だから、全然自信がない子でも、面白さに変えていけたら、自分にも少しは自信を持てるんじゃないかなと思いました。
第2回に向けて
寺中:ありがたいことに「またやってほしい」って声をたくさんもらって。今回のライブはチャリティーイベントだったんですけど、「楽しかったから応援として寄付した」って言ってくれた人もいて。普通の寄付イベントでは感じられない「ありがとう」の気持ちがあったんだなと。
今度は、今回とはまた違う若者たちにも出てほしいですね。
ウラノ:もし、また出たいって子がいたらそれも嬉しいし、新しく挑戦したい子が出てくれたらもっと嬉しいです。稽古も、与えられたものをやるだけじゃなくて、人が集まって何かを作るってことに意味があると思っていて。
「できなかったことを頑張ってやる」って、人間らしい瞬間だと思うんです。テクノロジーが進んでも、緊張しながらも頑張って成果を見せるっていう、その姿に感動する。
人間を応援するようなライブ。そういう方向にもっと近づけたらと思っています。
寺中:第2回は7月5日に開催します。ぜひ来てほしいです。本当にそれだけです。
話だけ聞いても、実際に見てみないと分からない部分があると思うので。
ぜひ、体験しに来てください!
ーーーお笑いイベント「スポットライト vol.2」 開催概要ーーー

【日時】2025年7月5日(土)13:00-14:30(12:40開場)
【場所】大塚ドリームシアター
〒170-0004 東京都豊島区北大塚2丁目7-11 B1
Googleマップ:大塚ドリームシアター
https://maps.app.goo.gl/2nPoGZo5PfCLM4BR7
▼お申し込みはこちら
https://sankakusha0705-owarai.peatix.com
特集・企画
2025.05.21